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宮崎地方裁判所延岡支部 昭和32年(わ)175号 判決

被告人 安東敬二

主文

被告人を無期懲役に処する。

押収にかかるモンキースパナ一挺、ベビー服一着、ケープ一着、子供用毛糸靴下一足、同帽子一個、赤皮短靴一足(証第十ないし第十五号)及びふろ敷一枚(証第二十号)はこれを没収する。

押収にかかる男物腕時計二個(証第十七号及び第三十号)現金三千四百十六円(証第二十七号)中二千円は被害者丸惣商事株式会社に還付する。

理由

被告人は昭和三十二年八月二十八日より九月十日まで高山工業所に臨時運転手として雇われたほかは同年五月十二日頃より失業し、剰え同年九月十一日妻富美子が長女由美子を出産したので極度に金銭に窮していたものであるが、

第一、同年九月十六日午前零時頃延岡市下平原一二三三番地阿部イエ方において、高山工業所労務主任井崎松平管理の現金四千八百円位、銀行預金通帳一冊、健康保険印紙三百八十三枚、失業保険印紙二百六十二枚、万年筆一本、他印鑑、書類等在中革製鞄時価四千円位を窃取し、

第二、前記失業中の同年八月五日頃自分の金側腕時計、革製半長靴、短靴等を入質したことのある延岡市祇園町三五八三番地所在丸惣商事株式会社祇園町支店には一人の婦人が居住していることを知つていたので同家に押し入つて金品を強取せんと決意し、同年九月三十日午後十一時頃モンキースパナ(証第十号)を携行し右同店に客を装つて赴き、同店責任者富元ヌイ当四十七年が同店質庫に入つている隙をうかがつて質庫に侵入し、同女の頬部を一、二回位殴打し、これに驚いて被告人に抵抗して来た同女の後頭部を前記スパナの先端で六回位強打したところ、同女が人殺しと呼んだので同女を殺害の上所期の目的を達せんと決意し、右強打によつてその場に倒れた同女の頭部を被告人の膝にのせ手掌を以てその鼻、口を押えつけて同女の抵抗を不能にし、同女が着用のカーデイガン(証第八号)を捲り上げて同女の鼻、口を覆いこの上を布紐等を以て二重に緊縛した上さらに同女が蘇生しないため同所戸棚にあつた写真機サックの吊革紐(証第一号)を以つて同女の咽喉部を緊縛して同女を頸部絞扼に因り即時同所で窒息死させた上、同所より前記被告人が入質した腕時計(証第三十号)外丸惣商事株式会社が保管中の各種腕時計百七個、指輪一個、写真機二台、ふろ敷一枚以上時価合計三十二万四千九百八十円位及び現金四万六千五百円位を強取し

たものである。(以下略)

(裁判官 江藤盛 蓑田速夫 早川律三郎)

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